アイソメ図的設計思考
アイソメ図とはXYZの直交する3軸をそれぞれ平面的に120度傾け、空間や物体を斜め上から俯瞰したように描くプレゼンテーション手法の一つで、“等角投影図法”とも呼ばれる。対照的に、固定された視点から消失点に空間や物体が収束されるように描く“透視図法”と呼ばれる手法がある。透視図法は任意の視点を基準に、描かれる対象物には“手前”と“奥”という空間的ヒエラルキーが存在するのが特徴である。一方、アイソメ図は固定の視点を持たない三次元図であるため、部分と部分には空間的ヒエラルキーが存在せず、さらに消失点を持たないため、無限にその空間を拡張することができる。このように、アイソメ図には抽象性の高い空間概念が内包されている。
僕たちはランドスケープデザインを通して、人間の活動や営みが広がり、人間と自然とが心地よいバランスで共存している風景をつくりたいと思っている。そんな風景をランドスケープデザインによって具現化するためには、人が積極的にその場に訪れたい、滞在したい、使いたいと感じる要素や仕掛けが、ランドスケープの中に織り込まれている必要がある。
ここで、使い方や過ごし方の想像力を人々に喚起させる要素や仕掛けと、それを中心として生まれるある領域を“場所”と定義してみる。“場所”はあるエリア全体に及ぶ場合もあるし、パーソナルスペースと言われるような極めて個の領域を指す場合もある。僕たちの設計スタディにおいて“場所”たちは、面積や素材、用途等に関係なく等価に扱われる。なぜなら日常的に多くの人が集まるにぎやかな“場所”と、人がまばらで閑静な“場所”があった場合、“真ん中と端”“表と裏”“メインとサブ”といったような、空間的ヒエラルキーが生まれることを極力避けたいからである。 それぞれの“場所”が等価であるならば、ランドスケープはそれぞれにローカルな中心を持つ“場所”の複合体ということになる。つまり、ランドスケープの中に様々な中心が共存する、いわば“多中心”な状態を形成している。僕たちはその状態を維持させながら、“場所”たちを互いに重ねたり繋げたりすることで、“場所”どうしの相互作用を促し、人の滞留や流動、そして活動を誘発する。このように“場所”の複合体に連続性を与えることで、ランドスケープ全体に多様なアクティビティを発露させたいと考えている。
この“場所”という捉え方と、等価性、多中心性、連続性という“場所”どうしの複合的な関係性を基盤にした設計思考は、先述した空間的ヒエラルキーが存在せず、無限にその空間を拡張することができるアイソメ図の概念とどこか重なるように感じている。 部分と全体を行き来しながら、“場所”どうしの関係性を思考し形づくっていく “アイソメ図的設計思考”は、設計対象範囲内だけでなく、設計対象範囲外における要素との関係性においても展開できる。なぜなら“アイソメ図的設計思考”においては、“場所”が定義する領域の大きさは対象と視点との距離によって変化するが、“場所”どうしの関係性に対するアプローチは共通しているからである。
さらに都市や自然といったより大きな環境下では、ランドスケープは一つの“場所”と捉えることができる。俯瞰的な視点から、ランドスケープがつくる“場所”と周辺環境との相互関係や風景との調和について思考する。それは、例えば屋内と屋外の繋がりについて、あるいは広場のあり方について、人の居場所の快適性や多様性について思考することと同じ文脈上にある。 “アイソメ図的設計思考”とは、スケールを超えた様々な領域を重ね繋げることによって多様な関係性を構築し、風土や自然と調和した新しい風景へと辿る創造的思考の道筋なのである。